夢のドアノックダンス

ドアノックダンスと聞いてわかる人は少ないかもしれない。

ドアノックダンスとはオザケンこと小沢健二の「ドアをノックするのは誰だ?」という曲に合わせて踊る振り付けのことで、ダンスというほどのものではなく、歌に合わせて手拍子を2回ずつ打ち、体を右、左、右左右と揺らすだけの単純な動きのことだ。しかしこの、曲に合わせて行う単純な振り付けを踊るということが、私にとって死ぬまでにやりたいことだった。

 

この曲は、1994年の831日にリリースされた小沢健二のセカンドアルバムLIFEに収録されている曲だが、LIFEはこれ以外の曲もみんな好きで、何回聴いたかわからないくらいだ。

 

しかし、その後1998年頃に小沢健二は突然音楽活動を停止し、ニューヨークに行ってしまった。その後は時々、曲やアルバムを出していたが、私も自分の生活が忙しく、時々昔のアルバムを聴くくらいであった。時は流れ、YouTubeなるものが登場し、ある時見つけたのだ、その映像を。それは1995年の小沢健二の初の武道館ライブ「VILLAGE」のドアノックダンスの映像だった。

 

幸せオーラ溢れるその映像の中にいる全員がとても楽しそうに踊っていた。

指揮をする服部隆之さんも!

それは衝撃であった。私もここにいたかった!と強く思った。

そしてそのコメント欄の「49歳、いろーーーんなライブ、コンサート、フェスに行ったけれど、この武道館がいまだにナンバーワン」というものや「人って人を笑顔にできるんだと教えてもらった」というものを読み、ますますその憧れを強くした。

最終手段は、いつか里葉で踊る会をするしかないなどと妄想していた。

 

それがなんと突然その日が訪れることになった。LIFE発売日のまさにちょうど30年後の2024831日土曜日、武道館にて1日だけのLIFE再現ライブが行われることになったのだ。

え〜!まさかまさか、あのドアノックダンスが武道館で!あの空間に私も行けるのか⁈

チケットが当たるかドキドキだったが、幸運にも当選。しかもなんとアリーナ席だった!今回席種は選べなかったから本当に幸運であった。

神さまにありがとう!

 

これはあの夢のライブの再現だと、例のYouTubeで振り付けの練習をし(同行の友人たちにも見るように押し付け)いざ当日に臨んだ。

台風10号の影響が心配だったが、無事開催されることになった。

来られなかった人は本当に残念だったと思う。

 

さて、いよいよ会場に入ると、椅子の上に紙が置いてある。「While you were out,received a facsimile for you. 」中を開くとそれは、1994831日に送られたFAXだった。30年前の今日から送られたFAX。その中には今日の演奏曲のいくつかの歌詞が書いてあった。

 

ライブは前半が30年前から今までの軌跡で、後半がLIFE再現ライブということだった。そして再現ライブはLIFEの収録曲を後から1曲ずつ全曲を演奏するという贅沢なものだった。その中に「ドアをノックするのは誰だ?」がある。

そしてついにその時はやってきた。

 

その時間、私は全力で楽しんだ。しかし意外だったのは、ドアノックダンスを踊る人が思ったよりも少なかったということだ。手拍子はするのだが、肝心の右、左、右左右!が私のいたエリアはあまりいなくて、それが本当に残念だったのだけれど、友人たちが一緒に踊ってくれたし、舞台上ではスカパラホーン隊が踊っているのが見れてちょっと安心した。友よ、ありがとう!

 

あとからXなどを見ると、違うエリアでは結構踊っていたとか、センターステージだったので、私からは見えない場所だったのだが、服部さんが指揮をしながら踊っていたようだった(これ見たかった!)。

 

改めてLIFEや他の曲を聴くと、小沢健二の曲には宇宙の普遍や何気ない情景、人生への優しさ(まさにLIFE)に涙を流させるものが多々あると思う。

 ぼくらの住むこの世界では太陽がいつものぼり

 喜びと悲しみが時に訪ねる

 遠くから届く宇宙の光 街中でつづいてく暮らし

 ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり

 誰もみな手をふってはしばし別れる

 (ぼくらが旅に出る理由)

 

「ラブリー」という最高にハッピーな曲は、若い頃ノリノリで口ずさんできたけれど、この曲は小沢健二が1番辛く苦しい時に作った曲だということを後で知って驚いた。そしてとても胸が痛んだ。その後、彼は線路から降りて違う道を行く。

 

武道館のあと、また「Village」のYouTubeを観たら、涙が溢れてきた。

こんなにも月日が経った。

小沢くんにも私にも全ての人にいろいろなことがあって、でも皆それぞれ頑張って生きてきてここまできた。

そして幸せな空間と時間を、30年経って確かに共有できた。夢が叶った。

小沢くん、戻ってきてくれて、ありがとう。(Life is coming back.)

 

なぜこれほどまでに心が揺さぶられるのだろう。

それは彼がとても正直で、生きることに真面目で愛に溢れる人間だからだと思った。

この混沌とした世の中で、日常を正直に真面目に生きようと、そして愛を持って生きようと、そこに光があるのだと、いつも私たちに伝え、それを私たちは信じている。

 

今回のライブにお子さんが1000人来ていたとのこと。

これからの30年の間には「喜びと悲しみが時に訪ねる」だろうが、この日、こんな素敵な時間があったことをいつか思い出す。この場所に連れてきてくれた人の愛も。そしてそれはきっと「悩める時にも未来の世界へ連れてく」ね。

 

FAXの下の方、ある歌詞に丸がついていた

Where do we go ? where do we go ,hey now?

小沢健二から私たちへの問いかけ

さあ、またこれからの未来へ(30年あるかはわからんけど)歩き続けよう!